イーダーオーバーシュタインの宝石彫刻(3)
~独創性に溢れた宝石彫刻を世界に送り出す Peuster工房~

 世界的に注目を集めている宝石彫刻家Michael Peuster(ミシャエル・ポイスター)氏を中心に、マイスター彫刻家Claudia Peuster(クラウディア・ポイスター)氏他数名を抱える宝石彫刻工房であるPeuster工房をご紹介します。ポイスター氏は、カメオ 彫刻家として2014年9月号ガイド誌の特集でご紹介しましたが、工房の紹介を交えて改めて魅力をお伝えします。


宝石彫刻家Michael Peuster(1967-)ミシャエル・ポイスター

タイのプミポン国王の胸像を彫刻するポイスター

タイのプミポン国王の胸像を彫刻するポイスター

ネズミの彫刻

本誌2014年10月号の表紙でご紹介した彫刻。(右)

 彫刻家ハインツ・ポストラー氏(2014 年7 月号でご紹介)に師事し、1983 年から約3 年間実習生として宝石彫刻、カ メオ彫刻を学びました。その後、宝石に関する専門学校で技術に加えて宝石に関する知識も深め、1991 年に24歳でマイスター試験に 合格しました。

 独創的なアイディアをもとに繊細な技術で彫刻される彼のカメオは評判が高く、若い頃から人気がありまし た。皆さんもよくご存じのアルフォンス・ミュシャシリーズのカメオについては、原型製作のカメオ彫刻家として、彼が大抜擢され ました。カメオ彫刻家として彫刻技術を高め、近年はより大きな置物などの宝石彫刻の製作に取り組んでいます。

 タイのプミ ポン国王の胸像やルクセンブルグ王家から彫刻の置物を依頼されるなど、世界的に人気が高まっています。

Peuster工房

旧工房で作業に没頭するミシャエル氏。

旧工房で作業に没頭するミシャエル氏。

左から、筆者、クラウディア氏、ミシャエル 氏。

左から、筆者、クラウディア氏、ミシャエル氏。

 マイスター試験に合格した1991年にミシャエル・ポイスター氏が設立した工房です。設立当初は、動物モチーフのカメ オ彫刻とクリスタルペインティングにおいて特に評判の良いクラウディア・ポイスター氏と2人で工房を運営し、様々なモチーフのカ メオを世に送り出していました。

 私は、この頃から彼らを知っていますが、飛び抜けた独創性はすでに開花しており、お互い の彫刻技術を高めることでさらに作品の完成度に磨きをかけていったと私は考えています。

 近年、ミシャエル・ポイスター氏の作品が世界的に人気となり、様々な製作依頼、企画が工房に持ち込まれるようにな りました。現在では数名の若手彫刻家を迎え、様々な宝石に彫刻が行われています。


本誌5月号表紙の亀のデザイン画を見せ ていただきました。

本誌5月号表紙の亀のデザイン画を見せていただきました。

 技術伝承にも力を入れており、後進の育成のために彫刻の指導も行っています。若い彫刻家が工房で作業をしている現 在でも、新しい作品のアイディアを出すのはやはりミシャエル・ポイスター氏で、今年4月に工房を訪れた際も、たくさんあるアイデ ィアを作品として作り上げていくには、まだまだ時間が足りないと話してくれました。

新しくなったPeuster工房

 2015年4月、ミシャエル・ポイスター氏はイーダー・オーバーシュタイン近郊の小高い丘に、ギャラリーを併設した新し い工房をオープンさせました。私が訪れたのはオープン直前でしたが、しっかりとした重みのあるドアを開けると、おしゃれなカウ ンターがあり、その先には彼の彫刻が展示されている広いギャラリーがありました。

オープン前の新工房(1階部分)の外観と、作業するミシャエル氏。

オープン前の新工房(1階部分)の外観。

広々としたギャラリー。

広々としたギャラリー。


 シロクマやネズミなどの宝石彫刻が私を迎えてくれ、現在の彫刻作品のテーマを彼が説明してくれました。以前より広く なった工房を眺め、今後はここで彼の作品が作られていくと想像すると、若い頃から彼を知る私としては、非常に感慨深いものがあ りました。

 実は3年ほど前から聞いていた新しい工房の計画。イーダー・オーバーシュタインを訪れるたびに聞くその構想に私は心 躍らせていたのですが、オープンの知らせを聞くことは長らくありませんでした。

 新しい工房のオープンまでに長らく時間が かかったのも、多忙であり、暇さえあれば新しい作品のことを考えている彼のことを思えば、思わず笑顔がこぼれてしまう、私にと ってはそんなエピソードなのです。

執筆

ストーンカメオ研究家三沢 一章

イーダーオーバーシュタインの宝石彫刻へ戻る