イーダーオーバーシュタインの宝石彫刻(8)
~ドイツ宝石博物館 特別展 「宝石のイースターエッグ」~

2016年1月号、3月号では「世界三大カメオをもとめて」と題して、非常に貴重で希少な彫刻品としての2つの素晴らしいカメオをご紹介いたしました。今回は、宝石の街イーダー・オーバーシュタインにあるドイツ宝石博物館にて開催されている特別展「宝石のイースターエッグ」をご紹介いたします。


宝石の街 イーダー・オーバーシュタインとは

イーダー・オーバーシュタイン

イーダー・オーバーシュタイン

イーダー・オーバーシュタインは、ドイツの中心都市のひとつフランクフルトから南西に約130キロにある、人口は3万人弱の緑豊かな小さな街です。ドイツ語で「石の上の町」を意味し、ナーエ川の谷あいに位置しています。フランクフルトからは車、電車ともに1時間半ほどの距離にありますが、イーダー・オーバーシュタインに近づくにつれて、なだらかな丘陵からごつごつとした岩肌に車窓が変わっていくことが印象的です。

15世紀半ばにメノウ鉱山が発見されたことから宝石研磨技術が発展し、以降宝石産業の集積地として発展してきました。1870年に採掘が中止されてからも世界中から原石が集まる宝石の街として知られ、現在でも住民の70%が何らかの形で宝石産業に関わっていると言われています。

のどかで静かな街ですが、老舗の宝石業者がひしめき、著名な宝石彫刻家が世界に向けて情報を発信し続けるユニークな街です。

ドイツ宝石博物館

ドイツ宝石博物館の外観

ドイツ宝石博物館の外観

ドイツ宝石博物館は街の中心部に位置し、1894年に個人の邸宅として建設された重厚感漂う建物にあります。世界中から集めた約1万点の宝石コレクションが展示されていますが、この博物館の大きな特徴は、イーダー・オーバーシュタインの彫刻家による数々の素晴らしい宝石彫刻の展示です。

これまで当コーナーでご紹介したカメオ彫刻家や宝石彫刻家の作品も数多く展示されています。イーダー・オーバーシュタインのカメオ彫刻の礎を築いたアウグスト・ヴィルト氏が1937年にパリ万博でグランプリを受賞したカメオや、リチャード・ハーン氏の遺作となったカメオは必見です。もちろん、光の魔術師と呼ばれる宝石彫刻家ベルント・ムンシュタイナー氏の作品も展示されています。

特別展 「宝石のイースターエッグ」

特別展の館内展示風景


特別展の館内展示風景

写真上、下:特別展の館内展示風景

特別展の監修を務めたゲルハルド・シュミット氏

特別展の監修を務めたゲルハルド・シュミット氏

原石からイースターエッグができるまでの工程を表した展示・写真右:Emil Becker社の作品

写真左:原石からイースターエッグができるまでの
工程を表した展示
写真右:Emil Becker社の作品

イースターと聞くと何を思い浮かべるでしょうか。卵探し、ウサギ、チョコレート。イースターは復活祭とも言われ、キリスト教の人々にとってイエス・キリストの復活を祝う大切な行事です。

そのイースターに欠かせないのが、イースターエッグといわれる絵や模様を描いた卵です。イースターの季節になるとカラフルでかわいらしいデコレーションを施した卵をたくさん目にします。
ドイツではイースターバーニーというウサギ(ウサギは古代より繁栄や多産のシンボルとされています)が卵を隠すという伝承があり、子供たちはイースターの朝に隠された卵探しをするのです。私たち日本人には馴染みの薄いイースターエッグですが、ヨーロッパの人々にとっては非常に身近で大切な存在であると言えます。


今回、2016年3月11日から6月5日までの会期で、フランス人コレクターClaude Pelisson(クロード・ペリソ氏)の宝石のイースターエッグ500点を特別展が開催されています。メノウや水晶、アクアマリンやトルマリンに加え、様々な鉱物のイースターエッグも展示されています。

彼は今年62歳になりますが、10歳の頃からずっと化石や鉱物を収集していたそうです。そして90年代中頃に初めて宝石のイースターエッグを買ったことを機に、宝石のイースターエッグの収集に「恋をして」しまったとのこと。卵は球でも楕円でもなく絶妙な形をしているため原石からこの形に削り出し磨くことは容易ではありませんが、記録によれば150年前からイーダー・オーバーシュタインでイースターエッグが作られています。

加えて興味深いのは、この特別展はカメオ彫刻家ゲルハルド・シュミット氏が監修していることです。クロード・ペリソ氏は素晴らしい品質の1000点近いイースターエッグをコレクションしており、その中から500点選ぶことに一番苦心したというエピソードをシュミット氏が教えてくれました。そう言えば、世界のセレブを魅了するEmil Becker(エミールベッカー社)でも、卵をモチーフにした作品がありました。様々な宝石の卵に出会えるのも宝石の街イーダー・オーバーシュタインならではのことではないでしょうか。

執筆

ストーンカメオ研究家 三沢 一章

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