イーダーオーバーシュタインの宝石彫刻 第2章 -3-
~ストーンカメオ講座(3)~ 「カメオの聖地を訪れて」

今回は、イーダー・オーバーシュタイン(ドイツ)とトーレデルグレコ(イタリア)の訪問記をご紹介いたします。イーダー・オーバーシュタインはストーンカメオで、トーレデルグレコはシェルカメオで、非常に有名な街であり、ともに稀にみるカメオの聖地、集積地です。9月号に続き掲載予定でした「カメオ彫刻技法『機械彫り』」は、次号以降で改めてご紹介いたします。

彫刻家や宝石商との再会の場所、年に一度のジュエリーショー「INTERGEM」

緑豊かな場所にある展示会場

▲緑豊かな場所にある展示会場

LIVING LEGENDSのコーナー

▲LIVING LEGENDSのコーナー

宝石の街イーダー・オーバーシュタイン。ドイツの中心都市フランクフルトから南西約130キロにあるナーエ川の谷あいに位置する人口3万人弱の緑豊かな小さな街でありながら、宝石研磨技術が発展し世界中から原石が集まる宝石の街です。(2016年5月号特集記事参照)

 そのイーダー・オーバーシュタイン郊外の展示会場で毎年1回開催されているINTERGEM(インタージェム)は、今回で32回目を迎えるバイヤー向けジュエリーショーです。「The World’s Finest Colours」のテーマのもと、今年は9月30日から10月3日までの4日間開催され約120社が出展しました。世界規模のジュエリーショーである香港フェアやバーセルフェアと比較すると確かに小ぢんまりとしていますが、「世界最上級のカラー」というテーマの言葉通り、高品質なルースや、宝石彫刻家による創造性豊かな作品が多数展示されているのが特徴です。今回のフェアで目を引いたのは、「LIVING LEGENDS(生きる伝説)」のコーナー。各社ブースとは別に作家個人名での特別展示があり、そこにはGSTVや「麗しの宝石物語」でも大好評の、光の魔術師ベルンド・ムンシュタイナー氏とエミールベッカー社のマンフレッド・ヴィルド氏の作品がありました。ちょうど私が訪れた時間帯は、州政府関係者とテレビクルーに囲まれて取材を受けており、二人の地元での人気ぶりを改めて認識させられました。後日、ベルント・ムンシュタイナー氏に素晴らしいコーナーだったねとお話しすると、「主催者に頼まれたので展示しているだけだよ」と少し照れくさそうに話してくれました。

アンドレア・ゾーネ氏のブースにて

▲アンドレア・ゾーネ氏のブースにて

 私は、各工房を訪問するのとはまた違った発見があるため、数年に一度はこの展示会を訪れるようにしていま す。今回も貴重な出会いがたくさんありました。会場内を歩いていると、「やぁお久しぶり」とか「最近こんなものを作っているよ」などの声が飛び交います。今現在は取引がなくても、昔一緒に仕事をした方々の近況を聞き、作品を見せてもらうことは私にとって大きな刺激とモチベーションになるのです

市長Frank Fruhauf氏と筆者

▲市長Frank Fruhauf氏と筆者

 余談になりますが、各地からバイヤーが訪れるためインタージェムの期間中は市内のレストランは予約で一杯になります。予約の関係で久しぶりに訪れたレストランで、なんとイーダー・オーバーシュタイン市長と偶然お会いすることができ、思いがけないサプライズとなりました。

ついに!ゲルハルド・シュミット氏の機械彫りカメオが登場!?

シュミット工房にて

▲シュミット工房にて

 今回のイーダー・オーバーシュタイン訪問のもう一つの目的は、新しい機械彫りカメオの原型確認を行うことです。これが初めての発表になりますが、数か月のうちにカメオ彫刻の巨匠、ゲルハルド・シュミット氏の機械彫りカメオがついにGSTVでデビューする予定です!これまでお客様から多数のご要望をいただいており調整を続けてまいりましたが、ようやく準備が整いつつあります。今年4月頃から、シュミット氏がGSTVのお客様のために特別限定モデルの デッサンに着手し、その後8月に手彫りカメオのマスターが完成。10月になり、ついに機械彫り原型の試作が完成したのです。これから微調整を行いシュミット氏の最終的なチェックを経て、機械彫りが開始される予定です。現地でシュミット氏や原型制作担当者と打ち合わせを行ってきましたが、素晴らしいカメオです。完成間近です、ご期待ください。特別に、手彫りカメオ制作前のデッサンを一型分だけお見せいたします。

機械彫り原型の試作と手彫りカメオのデッサン

左:機械彫り原型の試作  右:手彫りカメオのデッサン

シェルカメオの巨匠 アニエッロ・ペルニーチェ氏を訪ねて

トーレデルグレコの風景

▲トーレデルグレコの風景

シェルカメオ彫刻用の彫刻刀

▲シェルカメオ彫刻用の彫刻刀

ウェイターの手首にさりげなく着けられていたシェルカメオのブレスレット

▲ウェイターの手首にさりげなく着けられていた
シェルカメオのブレスレット

彫刻家ペルニーチェ親子とともに工房にて

▲彫刻家ペルニーチェ親子とともに工房にて

 GSTVでは主にストーンカメオのご紹介をさせていただいておりますが、実は私のカメオ人生の中でシェルカメオを切り離すことはできません。これまで、長い期間シェルカメオの仕事にも携わらせていただきました。その中でシェルカメオの聖地トーレデルグレコへは何度か訪れていますが、今回初めてGSTVでもお馴染みアニエッロ・ペルニーチェ氏の工房への訪問の機会をいただきました。

 シェルカメオの聖地、トーレデルグレコはイタリア ナポリ近郊にある人口8万人ほどの地中海に面した美しい街です。ベスビィオ火山や古代都市ポンペイ、カプリ島の青の洞窟やソレントなどイタリア屈指の観光地が多く立地する地域で、日本人観光客の姿も目立ちます。独特な石畳の街 並みと、「ボンジョールノー」という陽気な声が聞こえてくると、「ああナポリに来たな」という実感が沸いてくるのです。世界三大カメオの一つ、タツァ・ファルネーゼもまた、ここナポリにある国立考古学博物館に収蔵されています。明るい太陽、狭い石畳の道、陽気なナポリっ子、「ナポリを見て死ね」の名言もあります。そういう場所でシェルカメオは、匠の彫刻家の手によって作られているのです。

 ペルニーチェ工房に到着し作業台を見せていただくと、色あいや凹凸の形状が多様な材料となるシェルと特徴的な形状をした彫刻刀が並んでいました。材料も彫刻工具もメノウカメオのそれとは大きな違いがあります。それもそのはず、ストーンカメオの彫刻技法が全く異なるのです。実際に彫刻をさせてもらいましたが、指に伝わってくるシェルの硬さが非常に心地よいものでした。私がペルニーチェ工房を訪れて一番感銘を受けたことは、息子アントニオさんの存在です。技術継承は簡単ではなく様々な課題である中で、自らこの道を選び父に師事しているのです。父子が肩を並べてシェルカメオ彫刻の仕事をする姿が非常に印象的でした。父の良いところを受け継ぎながら、自分の持ち味を磨き良い作品を生み出してくれることでしょう。

 さて、またも余談になりますが、ペルニーチェさんと地元のレストランで美味しい海鮮料理をいただきました。そのレストランのウェイターの手首にチラリ、シェルカメオのブレスレットがさりげなく着けられていました。本当におしゃれですね。もちろん写真を撮らせていただきました。

 ペルニーチェ氏ご本人が登場されるGSTVオンエアが11月17日(木)、21日(月)、22日(火)に予定されています。新しいシェルカメオが登場予定です。ご期待ください。

執筆

ストーンカメオ研究家三沢 一章


(番組ガイド誌「ジュエリー☆GSTV番組表」 2016年11月号掲載)

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