アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol. 5
宝石の科学―サファイアのロマンとその多様な変種(一)

サファイアは伝統的に、気品、誠実、そして忠誠心を象徴しています。何世紀にもわたり、サファイアは王族や聖職者のローブを飾ってきました。そして様々なロマンと結びついています。そのロマンは、1981年に英国のチャールズ皇太子がダイアナ·スペンサーにロイヤル・ブルーサファイアの婚約指輪を与えたときに世界中に印象付けられました。

原石とロマンの象徴「ロイヤル・ブルー」サファイア

原石とロマンの象徴「ロイヤル・ブルー」サファイア

 サファイアは、鉱物種のコランダムに属します、コランダムはサンスクリット語でルビーを意味する「Kuruvinda」(クルビンダ)に由来します。現在は、赤色のコランダムはルビーとし、青色を含む赤色以外のコランダムをサファイアと呼んでいますが、それ以前は、ルビーとサファイアは別々の鉱物と思われていたのです。「ルビー」は赤色のスピネル、ガーネットなどが代用し、「サファイア」という呼び名も、中世まではラピス・ラズリにも使われていたのです。

 コランダムには赤色以外に様々な色相があり、最も頻繁に見られるのはブルーサファイアです。ブルーサファイアは、純粋な青色の石もありますが、緑がかった青から紫がかった青まで、色に幅があります。 赤と青色以外は「ファンシーサファイア」と言いますが、一般的には色相名を前につけて、オレンジサファイア、グリーンサファイア、パープルサファイア、バイオレットサファイアなどと呼びます。ファンシーサファイアはブルーのものより少なく、比較的小さなものは多いのですが、非常に大きなサイズのものはかなり少ないです。それでもファンシーサファイアは、この宝石にまつわるロマンを愛し、しかも普通とは違うものを好む方にとっては幅広い選択肢を提供してくれます。1990年代に東アフリカおよびマダガスカルでの発見により、ファンシーサファイアが広く認識されるようになりました。 新しい産出地は、スリランカのような伝統的な産地からの産出を補い、イエロー、オレンジ、ピンク、そしてパープルサファイアの供給を増加させました。

多様なファンシーサファイア

▲多様なファンシーサファイア

 ファンシーサファイア中で特別な存在とも言えるスリランカ産のパパラチアサファイアは、シンハリ語で「蓮の花」を意味し、ピンクがかったオレンジの美しいものは単一色のサファイアよりも何倍の価値がつきます。スリランカ人は、伝統的に自国と関連付けられたこの色に特別な愛情を抱いています。

 コランダムは、アルミニウムと酸素から構成されており、ケイ素が存在しない地殻環境で成長します。しかし、地殻にケイ素は非常に多く含まれているため、天然コランダムは比較的希少な鉱物となっています。 純粋な状態では、コランダムは無色になりますが、 ほとんどのコランダムには、色の原因となる遷移金属元素が含まれています。遷移金属元素が鉄およびチタンである場合、コランダムはブルーサファイアになります。コランダムに含まれる鉄が多いほど、青色も濃くなります。クロムは、ルビーの赤色やピンクサファイアのピンク色を生じさせます。

最高品質の青色は「ロイヤル・ブルー」と呼びます。

 ブルーサファイアの価値に最も重要な影響を与えているのは、色です。 最も価値が高いとされるブルーサファイアは、ミディアム~ミディアムダークの色調で、ベルベットのように滑らかな濃い青色です。 強い鮮やかな彩度をもったサファイアは、より好まれ、「ロイヤル・ブルー」と呼ばれています。かつて美しい「ロイヤル・ブルー」サファイアはイギリス王室御用達でした。この品質を持ったサファイアは、カラットあたりの最高価格の価値があり、特にミャンマーのモゴック地方から採掘された「ロイヤル・ブルー」のような大粒で美しいものはとても貴重です。

厳選された「ロイヤル・ブルー」サファイアのマスターストーン

▲厳選された「ロイヤル・ブルー」サファイアのマスターストーン

矢車草のブルーから名つけられた「コーンフラワー・ブルー」サファイア

▲矢車草(左)のブルーから名つけられた「コーンフラワー・ブルー」サファイア(右)

「コーンフラワー・ブルー」とは?

 もうひとつブルーサファイアの貴重色は、「コーンフラワー・ブルー」と呼ばれるカシミール産サファイアのような、矢車草の色に近似するブルーです。彩度が高く、上品で非常に落ち着いた色合いです。1881年にインド・パキスタン国境に位置するカシミールの山岳地帯から、柔らかな白みがかった色と、すみれ色がかったサファイアが産出されました。このようなカシミール産コーンフラワー・ブルーサファイアは、現在ほとんど産出されないですが、スリランカやマダガスカルにも同様な美しいものが少量ですが産出されます。

 GSTV宝石学研究所は、「ロイヤル・ブルー」と「コーンフラワー・ブルー」と呼ぶマスターストーンを設定し、国際鑑別ラボ間で採用されている同一基準でサファイアの色合いを判定し、鑑別保証書に「ロイヤル・ブルー」と「コーンフラワー・ブルー」と記載します。

 ブルーサファイアとファンシーサファイアの他に、コランダムの興味深い変種を紹介します。コランダムには、スター効果(アステリズムと呼ばれる現象)を示すことがあります。通常、カボションカットの石の湾曲した表面で六条の星の模様として表れます。 スター効果はルビーやどの色のサファイアにも見られることがあり、多数の細かな方向性を持った針状インクルージョンから反射する白色光により生じています。

 もう一つ興味深い変種は、カラーチェンジサファイアです。 この魅力的な石は、照明が変わると違う色に見えます。 カラーチェンジサファイアの存在は、すでに素晴らしい宝石のコランダム族にさらに特別な一面を加えます。

最近スリランカで発見されたサファイアの原石と研磨後の美しいスター効果

▲最近スリランカで発見されたサファイアの原石(左)と研磨後の美しいスター効果(右)

執筆

理学博士・FGA 阿依 アヒマディ博士

京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在は宝石科学のコンサルタントとして、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関しては日本を代表する宝石学者。

(番組ガイド誌「ジュエリー☆GSTV番組表」 2017年1月号掲載)

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