アヒマディ博士のジュエリー講座 vol.2
〜宝石の科学 宝石の誕生とその成因〜

2016年9月からスタートしたGSTV宝石宝石学研究所。初代所長であるアヒマディ博士の宝石講座 本号は「宝石の誕生」について。宝石はどのように作られたのか、アヒマディ博士が説明いたします!

 宝石は、美しさと耐久性、そして多くの場合は、その希少価値をもとに厳選された天然の結晶鉱物であります。地球上に存在する4000種類以上の鉱物が認定されていますが、宝石はそれらの中でも、ある程度以上の硬度を持ち、しかも美しさの条件が備わっている必要があります。そのため、宝石として市場に流通しているものは100種程度しかありません。よく知られているように、宝石はそのほとんどのものは、地球内部から産出された鉱物で、地球を構成する三層構造の地殻、マントル、核の中で、主に地殻で形成されています。最も有名な宝石であるダイヤモンドだけは、マントルで生まれています。

 宝石は、マグマの熱い熱気、非常に高い圧力、そしてその緩やかな冷却過程において育てられます。マグマは凝結したり、液体が蒸発したりする過程で、原子が規則正しく配列し、結晶へ成長し固体となります。宝石には、十分成長できる時間や空間が必要です。これは宝石が形成されるために、最も必要な条件とプロセスであります。宝石の結晶への成長環境としては、マグマの溶液、ガス、熱水、環境の変化による変成作用、表層水そして地球深部のマントルなどが上げられます。

 宝石は、主に地殻の岩石の中で結晶化されます。その岩石とは以下の3種類に分類されます。

 1. 火成岩 
地球深部のマグマが地下や地表で冷えて固まった岩石(深成岩と火成岩がある)

 2. 堆積岩 
地表に露出した岩石が物理的、化学的な風化作用を受けて破壊され、 河川の運搬によって下流に堆積され、生じた岩石(砕屑岩、石灰岩)

 3. 変成岩 
堆積岩がマグマに接触したり、熱や圧力を受けたりして、元の岩石組 織及び鉱物組織が変化し、再結晶化した岩石(ホルンフェルス、結晶片岩、片麻岩)

 たとえば、深成岩である花崗岩のマグマは、地殻深部で冷えるにつれ、多様な化学成分により結晶化し、長時間に渡って液体状態で残存すると、大きな結晶が形成されます。コランダム、ガーネット、ジルコンそしてムーンストーンなどはその代表的な例です。また、岩脈や岩石の割れ目から大きなエメラルドやアクアマリン、トルマリンなどの結晶も形成されます。

 マグマの侵入により上層部にある既存の岩石と接触し、温度の上昇とマグマから流出した溶液によって、元の岩石が分解され、再結晶化します。この過程で多くの新しい鉱物が生まれることがあり、ガーネット、ルビー、サファイア、スピネルなどはその代表的な例です。

地殻、岩石、宝石の分布図

広域変成岩から形成されたルビー

▲広域変成岩から形成されたルビー

玄武岩に含まれるサファイア

▲玄武岩に含まれるサファイア

広域変成岩から形成されたタンザナイト

▲広域変成岩から形成されたタンザナイト

サファイアの結晶形

▲サファイアの結晶形

地表においても、風や雨水などから風化された岩石の砂利は川流によって運ばれる過程で、河砂利に重い鉱物が沈殿し、長い地質的な年月をかけて押し固められながら、水分が少しずつ蒸発し、新たな鉱物や宝石が生成されます。その代表的なものは、オパール、トルコ石、アズライト、マラカイト、化石などです。

したがって、宝石はさまざまな母岩を持ち、与えられた成分、温度、圧力条件の下で、自然で生まれてくる種類も異なるのです。

アヒマディ博士

執筆

阿依 アヒマディ

理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。

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