アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol.27
「ペリドット」

ペリドット

 ペリドットは古代から使用されてきた古い宝石のひとつです。エジプトでは、太陽神を国家の象徴として崇拝した時代、ペリドットは「太陽の宝石」と呼ばれ、ファラオたちの王冠や装飾品を黄金とともに埋め尽くしていました。その後、この石はローマに渡り、「夫婦の幸福」と記録され、王と王妃の愛情を結びつけたと言い伝えられています。

 ペリドットという言葉は、アラビア語で「貴石、宝石」という意味の「faridat」に由来します。古代エジプト人は、Topaziosと呼ばれていた紅海にある島(現在のセントジョンズ島)で緑色の宝石を発見し採掘していましたが、その宝石は長い間「トパージオス」、「トパーズ」という名前で産出されていました。実はそれは「ペリドット」だったのです。中世の人々の間でも、エメラルドとペリドットがしばらく混同され、ドイツのケルン大聖堂の神殿に飾られた200カラットのペリドットをエメラルドとして信じていました。1904年に宝石質のオリビンがペリドットとして公式に認知され、八月の誕生石にもなっています。

ペリドットとは

 地球深部(上部マントル)で形成される橄欖石(カンラン石:オリビン)は、主にマグネシウムを含む白色、黄緑色を示すフォルステライト(Mg2SiO4)と、鉄を含む褐色、黒色を示すファイアライト(Fe2SiO4)に分かれます。宝石として鮮やかな黄緑色の橄欖石をペリドットと呼び、鉄とマグネシウムの両方の元素が含まれています。鉄の含有量が増えれば緑色が濃くなり、マグネシウムが多ければ黄色味が強くなります。ペリドットは一般的に地球深部の60kmあたりで形成され、上部マントルの主要な構成鉱物であり、マグマの噴火によって地表に運ばれます。米国、中国、ベトナムなどの国で分布する溶岩流の中に内在する不規則な塊から発見されたり、ミャンマー、パキスタン、フィンランド、紅海のザバガッド島などで見られる固化した溶岩の鉱脈中に大きな結晶が見つかったりします。また、地球以外の発生源として、隕石中に非常に希少なペリドットが含まれる場合もあります。

多くの結晶質の橄欖石(オリビン)から構成された橄欖岩

▲ 多くの結晶質の橄欖石(オリビン)から
構成された橄欖岩

再結晶化したペリドットはこの変成作用を受けた橄欖岩の接合部から見つかります。

▲ 再結晶化したペリドットはこの変成作用
を受けた橄欖岩の接合部から見つかります。

数百メートルも深いペリドットの採掘坑口

▲ 数百メートルも深いペリドット
の採掘坑口

宝石としての品質

 ペリドットのモース硬度は6.5〜7で、宝飾品として十分な耐久性があり、鮮やかなオリーブ・グリーンの色合いと独特の輝きが宝石として大変魅力的で、手頃な価格で入手できる宝石の一つです。ペリドットの色範囲は狭く、ブラウン・グリーン、イエロー・グリーン、純粋なグリーンがあります。上品質のものは緑色が強く、低品質のものは、褐色がかっています。最高級の色はほとんどミャンマーとパキスタンから産出され、アメリカのアリゾナ州や中国の吉林省から採掘されたものは標準品質と評価されています。

ペリドットに良く含まれる内包物 左:リリーパット(スイレンの葉) 右:クロマイトインクルージョン

▲ ペリドットに良く含まれる内包物
左:リリーパット(スイレンの葉)
右:クロマイトインクルージョン

 ペリドットには内包物が少なく、一般的に透明度が高く、良い品質のものが市場に多く出ています。「リリーパット」と呼ばれる反射の強い円盤状の特有な内包物がしばしば見られます。カットの形状は様々なものがあり、オーバル、クッション、ラウンド、トライアングルなどが一般的で、グリーンとイエローから構成されたモザイクパターンによって研磨のバランスが良く取れているかどうかの判断ができます。また、手作業によって研磨と彫刻がなされたデザイナーカットはとても人気です。ペリドットの小さいサイズは比較的廉価ですが、10カラットを超えると価格が急上昇します。

世界的名産地と特色

 宝石愛好家にとって宝石の原産地を知ることはとても大事なことで、それは上質のペリドットでも同様です。歴史的に有名なエジプトの紅海に浮かぶセントジョンズ島では、現在はほとんど採掘されていないのですが、そこから産出されたものが確認できれば、その歴史的な価値が大いに評価されます。

ミャンマー

 ルビーの原産地として著名なモゴック地域は、ペリドットの名産地でもあります。Pyaung Gaung Kyaukpon 鉱山では、オリーブのような黄色味の少ない美しいグリーンが主流で、10カラットを超える大粒の結晶が変成作用を受けた橄欖岩から良く産出され、カットによって色の濃淡が明瞭に現れる最高品質のものが多いです。

最高級カラーのミャンマー産ペリドット

▲ 最高級カラーのミャンマー産ペリドット

ルビーの名産地モゴックに近いPyaung Gaungペリドット鉱山

▲ ルビーの名産地モゴックに近い
Pyaung Gaungペリドット鉱山

パキスタン

 ミャンマーと同じ最高級カラーのペリドットが産出されています。1992年に、標高4000メートル以上の高山地域のSapat谷から良質のペリドットが発見されましたが、採掘は極めて困難であるため、採掘量も限られています。

パキスタン産最上質のペリドット・リング

▲ パキスタン産最上質のペリドット・リング

高峰をそびえるパキスタンのSapat谷に位置するペリドット鉱山(Vincent Pardieu撮影)

▲ 高峰をそびえるパキスタンのSapat谷
に位置するペリドット鉱山 (Vincent Pardieu撮影)

アメリカ

 アリゾナ州から産出されたペリドットは世界総産出量の80%を占めます。メキシコ国境に近いSan Carlo地域の火山岩(玄武岩)から小粒の黄緑色のペリドット結晶が豊富に産出され、褐色味の強いものが比較的多いです。ミャンマー産やノルウェー産のペリドットと比べ、色味に差があり、標準品質のものが多く、価格も比較的安いです。

アメリカアリゾナ州のSan Carlo鉱山で見られるペリドットを含む玄武岩(Peridot Dreamsから引用)

▲ アメリカアリゾナ州のSan Carlo鉱山
で見られるペリドットを含む玄武岩
(Peridot Dreamsから引用)

アリゾナ産ペリドットの原石

▲ アリゾナ産ペリドットの原石

カットされたオリーブ・グリーンを示すアリゾナ産ペリドット

▲ カットされたオリーブ・グリーンを
示すアリゾナ産ペリドット

ノルウェー

ノルウェー産淡緑色のペリドット

▲ ノルウェー産淡緑色のペリドット

 サンモーア(Sondmore)から柔らかい若草色を呈するペリドットが採掘されています。色の濃度と彩度から見るとミャンマー産より低いですが、均一な淡めの純粋な緑色を示すのが特徴です。5カラットを超える石は希少です。

中国

 1970年代に吉林省の白石山と河北省の張家口に分布する玄武岩から、高彩度の小さい黄色がかった緑色のペリドットが産出され、世界市場に台頭していました。他の産地に負けないほどの上質な比較的大粒の濃厚な石がバランスよくカットされ、市場に非常に良い印象を与えました。しかし、近年の産出量が減少し、今後の採掘活動に期待したいところです。

中国河北省の張家口にあるペリドット鉱山

▲ 中国河北省の張家口にある
ペリドット鉱山

中国産高彩度の黄色味がかった緑色のペリドットと原石

▲ 中国産高彩度の黄色味がかった緑色の
ペリドットと原石

中彩度を持つ黄緑色の張家口産ペリドットの選別

▲ 中彩度を持つ黄緑色の張家口産
ペリドットの選別

アヒマディ博士

執筆

阿依 アヒマディ理学博士・FGA

京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表そしてGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関しては日本を代表する宝石学者。

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