(番組ガイド誌「GSTV FAN」 2019年6月号掲載)
アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol.34
斜長石系列に含まれる人気宝石(2)
長石には多種多様の宝石があり、化学成分によって二つの系列に分類されます。前章で紹介したアルカリ長石(カリウム長石-ナトリウム長石)の固溶体系列に含まれる最も人気の宝石「ムーンストーン」は独特な美しさがあり、長石の代表とも言えます。斜長石(ナトリウム長石-カルシウム長石)の固溶体系列においても、光学現象を示さないものと示すものがあり、黄色の透明なアンデシン、ラブラドライト、バイトウナイト、“アベンチュリン効果”のある透明から半透明なオレンジ~赤色を呈するオリゴクレース・サンストーン、アンデシン・サンストーン、ラブラドライト・サンストーン、そして“アデュラレッセンス効果(青色閃光-シラー効果)”のあるアルバイト・ムーンストーン、ラブラドライト・レインボー・ムーンストーンなどが挙げられます。
斜長石長石の固溶体系列に含まれる宝石
光学現象を示さないもの
−無色アルバイト、イエロー・アンデシン、イエロー~ゴールデン・ラブラドライト、イエロー・バイトウナイト
「無色アルバイト」
斜長石に属する六つの変種の一つで、組成純度が90〜100%のものをアルバイトと言います。通常は白色として産しますが、宝石として使われるものは無色です。良質の石はカナダで産出されています。
「イエロー・アンデシン」
安山岩によく含まれる斜長石の一種で、アンデス山脈が名称の由来です。モンゴルや内モンゴル自治区やオーストラリアなどに黄色透明なアンデシンが産出され、宝石用にカットにされています。
「イエロー~ゴールデン・ラブラドライト」
ラブラドライトは斜長石系列で、アルバイトとアノーサイトの成分比率から見ると、アノーサイトが全体成分の50%〜70%を占めています。ラブラドライトは虹色の光を示すものと思われがちですが、内包物が入っていない透明なイエロー~ゴールデンを示すものもあり、メキシコのチワワ(Chihuahua)州やアメリカのオレゴン州などでサンストーンと共に採掘されています。
「イエロー・バイトウナイト」
ラブラドライトと端成分であるアノーサイトの混合でできたカルシウム豊富な長石です。メキシコのチワワ州のドラド(Dorado)鉱山からイエローラブラドライトと共に黄色味のバイトウナイトも産出されています。
光学現象を示すもの
−アルバイト・ムーンストーン、ラブラドライト・レインボー・ムーンストーン
「アルバイト・ムーンストーン」
斜長石系列に含まれる青色閃光を示す「ムーンストーン」の一種です。化学組成はアルカリ長石系列に含まれるオーソクレースの「ムーンストーン」と全く異なり、アルバイトとオリゴクレースが分離した二層のラメラ構造によって生み出される青色の閃光を示す「ムーンストーン」です。カナダのオンタリオ州から青いシラーの弱いものが産出されていますが、2005年に、タンザニアのナマルル(Namalulu)地域に高品質なアルバイト・ムーンストーンが発見され、ラメラ層が薄いため、虹色ではなく均一な青色が形成されています。外観上スリランカ南部のミーティヤゴダ(Meetiyagoda)地域の「ロイヤル・ブルー・ムーンストーン」と非常に酷似しているため、肉眼での識別は困難です。
「ラブラドライト・レインボー・ムーンストーン」
ラブラドライトは通常は鮮やかな虹色を放つ特徴があり、これはイリデッセンス現象によるもので、ラブラドレッセンス効果とも呼ばれます。1770年にカナダのラブラドル半島で発見されたため、この名称になりました。ブルー・ムーンストーンと比べ、灰色や黒色の生地にオレンジ、黄、緑、青色などの色彩が同時に現れます。最近、マダガスカルから虹色の光よりも強い青い閃光を多く示す白色の生地を持つラブラドライトが産出され、ブルー・ムーンストーンに非常に似ているため、レインボー・ムーンストーンと呼ぶようになり、宝飾市場で販売されています。
斜長石系列に属する「サンストーン」
サンストーンはムーンストーンと比べ、歴史が浅く、アメリカのオレゴン地域に生活していた原住民らが1900年代の初期に溶岩からサンストーンを見つけたという説があります。血のような色の石は彼らにとってパワーの象徴でありました。今日の宝飾マーケットでは、最も人気のあるラブラドライト・サンストーンとして宝石愛好家に買い求められています。
「オリゴクレース・サンストーン」
インド中南部のカルール(Karur)地域から産出され、赤鉄鉱や針鉄鉱を含んだキラキラとしたアベンチュレッセンス効果によって赤オレンジ色の輝きを示すオリゴクレースです。ほとんどカボションカットにされ、ラメラ構造と鱗辺状のヘマタイトの配列によって、美しい輝きを示します。
「アンデシン・サンストーン」
2005年にチベットの第二都市であるシガゼ(Shigatse)から55kmほど南に離れたバイナン(Bainang)地域で発見され、二次鉱床として中生代の泥質砂岩や第三期の堆積岩中から採掘されています。化学成分はCaを富んだアンデシンに分類され、オレゴン産ラブラドライト・サンストーンと隣り同士の変種ですが、ほとんど微細な自然銅によって、赤味のあるオレンジや赤色や緑色が形成されています。チベット産アンデシン・サンストーンは地色の黄色が見えず、石全体としてオレンジ赤色を呈します。インクルージョンが小さいため、キラキラとしたメタリックの光沢がなく、透明度の高いものが多く、ファセットカットにされます。半透明なものは一般的にビーズに適し、安価で入手できます。
「ラブラドライト・サンストーン」
オレゴン州の中南部にある砂漠地帯に分布する火山岩から産出するラブラドライトは、小粒の自然銅を含み、この内包物によってキラキラとした反射効果が現れ、オレンジ~赤色~緑色を発色しています。オレゴン産サンストーンの地色は通常は黄色で、サイズの大きな銅インクルージョンが入った場合に、キラキラとしたアベンチュレッセンス効果が現れ、黄色の地色の上に赤みを帯びたオレンジが形成され、メタリックな光沢を示します。小さい銅の場合は、顕微鏡でも見えないほどの微細な銅のコロイドによって、赤色が形成されています。更に小さくなると、緑味を帯びてきます。ツーソンショーでは、「オールアメリカン」と呼び、販売されています。
執筆
阿依 アヒマディ
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。