イーダーオーバーシュタインの宝石彫刻 第2章 -6-
~ 手彫りと機械彫り~

2016年9月号ガイド誌にて、ストーンカメオ講座(3)~「手彫りと機械彫り」~として手彫りについてご説明しました。
今回は、カメオの彫刻技法「機械彫り」についてご説明いたします。

ストーンカメオ彫刻技法「機械彫り」とは

1970年代、初めて機械彫りカメオを開発した会社社長とともに(2015年撮影)

▲1970年代、初めて機械彫りカメオを開発した
 会社社長とともに(2015年撮影)

 ストーンカメオの彫刻方法は、「手彫り」と「機械彫り」の2つに大別できます。さらに、機械彫りの中で、手彫り工程を多く組み入れた「ハンドフィニッシュ」という技法があり、それを含めるとストーンカメオの彫刻技法は3種類であると言えます。お客様より多く寄せられるご質問のひとつに、手彫りと機械彫りがあります。それぞれに特徴と魅力がありますが、手彫りは説明が分かりやすくイメージがしやすい一方で、機械彫りは説明が技術的な内容になりがちでイメージがしにくいことから、誤解されている方も多いのではないかと思います。今回は、読者の皆様に正しい機械彫りの情報をご提供し、さらにストーンカメオの魅力に触れていただきたいという想いから、機械彫り技法について詳細にご説明いたします。

 日本を始めドイツ以外の国々でストーンカメオが注目され始めた1970年代当時、美しいカメオを彫刻できる彫刻家の少なさに加えて、彫刻家の絶対数も少なかったことから、供給できるカメオの数量は非常に少なく、カメオは非常に高額なものでした。より多くの方々にカメオを楽しんでもらいたいという想いから、機械で彫刻を補助できないかと研究をはじめ、1970年代後半に超音波によるストーンカメオの彫刻が可能となりました。これが、現在「機械彫り」と呼ばれる彫刻技法です。

「機械彫り」の作業工程

 機械彫りと言っても、コンピュータ制御によって全自動でカメオが量産されるというわけではありません。次のような工程を経て機械彫りカメオが完成します。

(1)材料どり

機械彫り技法のなかで、最も高度な技術が求められるのがこの材料取りの工程です。縞メノウの中から、カメオ用にどの部分が使えるか、どの部分が使えないかを判別するのです。暗い部屋で、縞メノウに光をあてながら、熟練した技術者が目で見て判別します。私も長らく携わっていますが、大手の工房でもこの作業ができるのは数名の技術者のみです。

大きな専用カッターで原石を細かく切断します

▲大きな専用カッターで
 原石を細かく切断します

切断した縞メノウ片に鉛筆でマークしていきます

▲切断した縞メノウ片に
 鉛筆でマークしていきます

ベテランの技術者の方とともに

▲ベテランの技術者の方とともに

(2)手彫りマスターカメオ作り

金属製の金型
金属製の金型

機械彫りをするためには最初に手彫りカメオが必要となります。2016年9月号でご紹介した手順で、彫刻家が手作業でマスターカメオを作ります。

(3)金属製の原型作り

(2)で作った手彫りマスターカメオをもとに、金属製の原型を作ります。手彫りマスターカメオと同様に精細な製作が求められます。

(4)銅板作り

工具に取り付けられた銅板

▲工具に取り付けられた銅板

銅板を一枚ずつ工具に固定していく作業

▲銅板を一枚ずつ工具に固定していく作業

(3)で作られた原型を使用して、銅板を作ります。作られた銅板は、超音波彫刻機に固定するため細長い工具に1枚ずつ手作業で取り付けられます。

(5)超音波彫刻

(1)で原石からカットされたメノウ素材と(4)で製作した銅板を超音波彫刻機にセットし、研磨剤入りの水を流し込みながら、超音波によって1枚1枚彫刻していきます。メノウは非常に硬いため、1枚のカメオを彫刻するために複数枚の銅板を差し替えていく作業が必要となります。銅板を差し替えながら、彫刻状況を確認していく、これは非常に手間のかかる作業ですが、超音波彫刻をするうえで重要です。彫刻が甘いとぼんやりした濃淡のはっきりしないカメオになり、逆に彫刻しすぎると凹凸の少ない立体感のないカメオになってしまうからです。彫刻が繊細で美しいカメオを仕上げるためには、この手間のかかる作業が欠かせないのです。数量については、彫刻家との契約のもと厳密に管理され彫刻されます。

「機械彫り」の課題

 彫刻家がすべての工程を手で仕上げる場合と比較して確かにその製作過程は短縮され、ある程度の量産が可能となりました。しかし、コンピュータ上のデザインソフトでイラストを描けば、それに基づきメノウの石に彫刻がなされるわけではなく、縞メノウ原石から材料取りをする技術者や超音波彫刻機を操作する熟練した技術者など多くの手作業が必要です。また、機械彫り工程の段階で彫刻の良くないカメオを作り、それらを市場に流通させてしまえば、カメオ全体の価値を下げ、お客様からの信頼も失ってしまいます。私が、これまで一貫して非常に厳しく品質管理をしてきた背景にはそういう理由があるのです。これからも、美しいカメオが市場に紹介され、お客様に喜んでいただけるよう、一層努力していきたいと思います。

執筆

ストーンカメオ研究家 三沢 一章


(番組ガイド誌「ジュエリー☆GSTV番組表」 2017年5月号掲載)

  • 第2章(5)の記事はこちら

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