イーダーオーバーシュタインの宝石彫刻 第2章 -8-
独創性に溢れた宝石彫刻を世界に送り出すPeuster 工房

 世界的に注目を集めている宝石彫刻家Michael Peuster(ミシャエル・ポイスター)氏を中心に、マイスター彫刻家Claudia Peuster(クラウディア・ポイスター)他数名を抱える宝石彫刻工房であるPeuster工房をご紹介します。

これまでにポイスター氏については何度かご紹介しておりますが、工房の紹介を交えて改めてその魅力をお伝えします。

Michael Peuster(1967-) ミシャエル・ポイスター

 彫刻家ハインツ・ポストラー氏に師事し、1983年から約3年間実習生として宝石彫刻、カメオ彫刻を学びました。その後、宝石に関する専門学校で技術に加えて宝石に関する知識も深め、1991年に24歳でマイスター試験に合格しました。独創的なアイディアをもとに繊細な技術で彫刻される彼のカメオは評判がとても良く人気がありました。皆さんもよくご存じのアルフォンス・ミュシャシリーズのカメオについては、原型製作のカメオ彫刻家として、彼が抜擢されました。カメオ彫刻家として彫刻技術を高め、近年はより大きな置物などの宝石彫刻作品作りに取り組んでいます。タイのプミポン国王の胸像やルクセンブルグ王家から彫刻の置物を依頼されるなど、世界的に人気が高まっています。

プミポン国王の胸像を彫刻するミシャエル氏

▲プミポン国王の胸像を彫刻するミシャエル氏

最近完成したネズミのオブジェ

▲最近完成したネズミのオブジェ

彫刻の構想を語るミシャエル氏

▲彫刻の構想を語るミシャエル氏

Claudia Peuster(1970-) クラウディア・ポイスター

 彫刻家リチャード・ハーン氏に師事し、1985年から約3年間実習生として宝石彫刻、カメオ彫刻を学んだ後、いくつかの工房にてカメオ彫刻を担当し作品を製作しました。1990年にミシャエル・ポイスター氏と結婚、2人でポイスター工房を設立し、1997年にはマイスター試験に合格、ポイスター工房の中心的な人物として活躍しています。デザイン力とデッサン力に優れ、動物モチーフなど写実的なカメオやクリスタルペイントに特に定評があります。

クリスタルペイント

▲クラウディア氏が得意とする
クリスタルペイント

クラウディア氏とギャラリーにて

▲クラウディア氏とギャラリーにて

Peuster工房

マイスター試験合格証

▲ギャラリーにかけられている
彼のマイスター試験合格証

 マイスター試験に合格した1991年にミシャエル・ポイスター氏が設立した工房です。設立当初は、動物モチーフのカメオ彫刻とクリスタルペインティングにおいて特に評判の良いクラウディア・ポイスター氏と2人で工房を運営し、様々なモチーフのカメオを世に送り出していました。私は、この頃から彼らを知っていますが、飛び抜けた独創性はすでに開花しており、お互いの彫刻技術を高めることでさらに作品の完成度に磨きをかけていったと私は考えています。

 近年、ミシャエル氏の作品が世界的に人気となり、様々な製作依頼、企画が工房に持ち込まれるようになりました。現在では数名の若手彫刻家を迎え、様々な宝石に彫刻が行われています。技術伝承にも力を入れており、後進の育成のために彫刻の指導も行っています。若い彫刻家が工房で作業をしている現在でも、新しい作品のアイディアを出すのはやはりミシャエル氏です。素晴らしい作品を作るうえで、彫刻技術はもちろんのこと、素材である原石と対話をしながら、様々なアイディアを膨らましていく独創力は、非常に大切な要素と言えるでしょう。

カタツムリに蝶が乗っているオブジェ

▲カタツムリに蝶が乗っているオブジェ

 2015年4月、ミシャエル・ポイスター氏はイーダー・オーバーシュタイン近郊の小高い丘に、ギャラリーを併設した新しい工房をオープンさせました。しっかりとした重みのあるドアを開けると、おしゃれなカウンターがあり、その先には彼の彫刻が展示されている広いギャラリーがあります。

 新しい工房のオープン後初めての冬の訪問となる今回は、12月ということもあり工房の周辺は一面の銀世界。青空と緑に包まれた夏と異なり、イーダー・オーバーシュタインの冬は曇天と静寂に包まれており、少し神秘的な気分で彼を訪ねました。ギャラリーでは、数年前に作品の構想を説明してくれたいくつかの原石が、作品となって展示されていました。一つ一つにストーリーがあり、時間をかけて彫刻された作品を目にし、改めて宝石彫刻の素晴らしさを感じ、嬉しいひと時を過ごしました。

 彼に会う度に感じることなのですが、彼の頭の中は、いつもたくさんのアイディアで溢れており、作品を作り上げていくには、まだまだ時間が足りないように思います。訪問する度に少しずつ増えていく宝石彫刻が私を迎えてくれる一方で、見慣れていた作品たちが世界中のコレクターのもとへ巣立っているポイスター工房。これからも、溢れるアイディアで様々な独創的な作品を生み 出してくれることを期待しています。

ポイスター工房へ続く道、一面銀世界

▲ポイスター工房へ続く道、一面銀世界

雪に覆われたイーダー・オーバーシュタイン

▲雪に覆われたイーダー・オーバーシュタイン

執筆

ストーンカメオ研究家三沢 一章

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